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医学ひとくち講座
人工股関節置換術について

 “人工関節”と聞くと、何かロボットのようなイメージを想像される方もいらっしゃるかと思いますが、関節周囲の骨はほとんどそのままで、痛んだ関節の表面のみを人間が作った表面に置き換えると考えて頂ければと思います。

 手術後も、外観上は手術したことが判らない位に歩いている方がたくさんいらっしゃいます。さらに、日本においては、人工股関節置換術は、年間約4万件もの手術が行われるようになってきています。

Q1
人工股関節置換術が必要な状態とは?
図1:正常な股関節。受け皿部分も球部分もきれいな軟骨で覆われています
図1:正常な股関節。受け皿部分も球部分もきれいな軟骨で覆われています
  この手術が必要な代表的な状態としては、変形性股関節症というもので、股関節の臼蓋部分(屋根となる受け皿)と大腿骨の骨頭部分(大腿骨の先端の球状部分)が摩擦し、長年の経過と共にすり減った状態です。(図1は正常な股関節ですが、図2はすり減った状態です)日本人には、臼蓋部分が先天的に小さい人が多く、臼蓋が小さいと少ない面積で体重を受けることになり、多くの負荷が加わってすり減っている状態です。(図3は術前のレントゲン写真)

 次に多いのは、慢性関節リウマチによるものです。慢性関節リウマチは全身の関節に発症し、経過と伴に助じょに関節が壊れてくる病気です。最初は内服薬等で治療をしていきますが、レントゲン上、関節の磨耗が進行してくると、人工股関節置換術が必要となります。

 続いて多いのは、大腿骨壊死症です。これは、大腿骨の骨頭部分の骨の血流が低下し(骨も常に血が巡っており、新しい骨と入れ替わっているのですが)骨頭部分が潰れてくる状態です。この原因としては、何らかの内科疾患で、ステロイドという薬を長期間大量に使用した場合、また長期間大量の飲酒を重ねた方に多いと言われています。

 これらの原因で股関節の軟骨がすり減ってきて骨同士がぶつかり合うようになり、内服薬や外用剤、リハビリを行っても症状が軽快せず、股関節痛のために日常生活に支障をきたしている人は、この手術が必要となります。

Q2
手術前には何をするのですか?
図2:すり減った股関節。軟骨がはがれて、骨同士がぶつかりあっています
図2:すり減った股関節。軟骨がはがれて、骨同士がぶつかりあっています
  まず、術前から筋力訓練のリハビリを行います。手術後は必ず、一時的に筋力が低下しますが、その低下をいかに少なく済ませるか、また、術後のリハビリの要領を術前から得ておくことも大切です。

 手術においては、血液センターからの血液を輸血していましたが、最近は、自己血輸血という手段があります。これは、待機、予定手術の患者さんに、術前より予め自分の血液を採取し、それを保存しておき、手術の際に使用するということです。術前に2回〜3回、1回/週、来院されることで手術に必要な血液を他人の血液を輸血することなく、自分の血液を戻してあげることによって、術後の出血に備えることができます。

Q3
実際の手術はどのようなものですか?
図3:術前のレントゲン写真。右股関節に高度の薄蓋形成不全変形性股関節症を認めます
図3:術前のレントゲン写真。右股関節に高度の薄蓋形成不全変形性股関節症を認めます
 麻酔は、下半身麻酔と全身麻酔を併用して行いますので、手術中に痛みを感じることは全くありません。お尻の方から大腿の横に薬20cm程度の切開は必要になります。筋肉を分けて関節に到達し、変形した部分を取り除き、骨盤側には、受け皿となる半球状の人工物を設置して固定します。大腿側には支えとなる心棒を挿入し(大腿骨はストローのように中空になっている)心棒の上に球状の金属を装着し、これが股関節として機能してくれます(図4・術後のレントゲン写真)。

 実際の手術時間は約1.5時間〜2時間程度です。最近、より小さな皮膚切開でこの手術を行う方法も報告されてきていますが、逆に時間がかかったり、骨折を引き起こすこともあるなど、現段階では賛否両論があるのが現状です。

Q4
入院期間はどのくらいですか?
図4:右側術後のレントゲン写真。歩容も改善し、近所の買い物が可能な方です
図4:右側術後のレントゲン写真。歩容も改善し、近所の買い物が可能な方です
 手術後から約1ヵ月が平均的な目安です。

 術後2〜3日後により、車椅子に乗車するようになります。最初は筋力訓練や関節の曲げ伸ばし訓練が中心ですが、約2週間後から手術した足にかける体重を制限しながら歩行訓練を開始します。さらに、徐々にかける体重を増やし、4週間後には全部の体重をかけ、軽い杖(T字杖など)を使用しながら、歩いて退院することを目標にしていただいております。

Q5
手術後に注意することは?
図5:現在使用されている代表的な人工股関節。受け皿部分、球状部分、心棒から成り立っています
図5:現在使用されている代表的な人工股関節。受け皿部分、球状部分、心棒から成り立っています
 【1】脱臼に注意
 人工股関節は、臼蓋部分(受け皿)と大腿骨側(球状〜心棒)の2つの部品で出来上がっています。この受け皿と球状部分は、凹面と凸面の関係によって安定して股関節としての色々な方向に動くようになっています。

 この凹面と凸面の位置関係は、股関節を外転位(開いた状態)にあると安定しているのですが、内転位(閉じた状態)や内旋位(足先を内に回す)にすると、位置関係が不安定になり、さらにそこに無理な力が加わると、はずれる、いわゆる“脱臼”という状態になってしまいます。

 そうならないように、術後には特殊な枕を下肢の間に挟んでいただいたり、車椅子に乗る際にも、小さな枕を挟んでいただくなどの工夫をしています。

【2】感染症に注意!
 どんな小さな手術でも、必ず伴うことですが、皮膚にメスを入れるということは、ばい菌が傷から体に入ってしまう危険があるということです。最近は予防処置も進歩してきており、その可能性は1%以下となってきているようですが、もしばい菌が傷から入ってしまった場合には、再手術を要することもあります。

【3】血栓症に注意!
 ロングフライト症候群という名でご存知の方も多いと思いますが、術後、長期間にわたりベッドの上で全く動かずにいると、下肢の静脈がうっ滞し、血栓(血の塊)を形成してしまうことがあります。これが何らかの拍子に血流に乗り、肺の太い静脈に引っ掛ってしまうことがあります。

 これに対しても、可能は範囲で下肢を動かす、術後早期にリハビリを開始する、点滴や薬剤投与など予防処置がとられるようになってきています。しかし、もし発症してしまった際には、内科、外科を含めた総合的な医療が早急に必要となります。

【4】術後も長期間注意!
 人工股関節には、やはり耐用年数というものがあります。これには、2つの問題が含まれていますが、一つは人工関節そのものの問題で、所詮人間が作ったものであり、すり減ってくることがあります。現在作られているもので、平均約20年の耐用年数があると報告されています。(図5・人工股関節)

 しかし、最近では、人工股関節の性能も手術の技術も進歩してきており、さらなる耐用年数の長期化が期待されています。

 もう一つは、人工関節を入れた周囲の骨の問題です。人工関節は、骨よりも硬い素材で作られているため、長年繰り返す負荷によって人工関節周囲の骨が侵食されてくることがあります。

 これに対しては、やはり過剰な負荷をかけない意味で、体重を増やさないようにすること、過度の運動は控えること、負担を軽減するために筋力訓練を継続することなどの予防努力が大切です。最近は、ある種の骨粗しょう薬が有効なのでは?とも報告されてきていますが、筋力訓練の継続は重要です。

 それでも人工関節がすり減ったり、周囲の骨組織に侵食が起こってきた際には、人工関節の入れ換え手術が必要となります。最初の手術より長時間で大きな手術となりますが、入れ換え専用の人工関節も開発されており、技術的にも確立してきています。

Q6
術後の日常生活について注意することは?
  退院後、多くの方に一本杖を使用してもらっていますが、3〜6ヵ月後に筋力が回復次第、杖の使用も必要なくなる方が多いようです。

 手術を受けられる方は女性が多く、女性の日常生活としては買い物が大きな問題と思われますが、近所への少量の買い物は十分可能になります。しかし、1時間以上の歩行や5キロ程度の重量物の買い物の際は、買い物カートの使用を薦めています。

 また、スポーツ活動に関しては、体重の負担が軽減される水泳は大いに薦めています。自転車も体重の負担が加わらず、筋力訓練になるためよい運動です。北海道で普及しているスポーツとして、パークゴルフがありますが、これも“数ラウンドを休みなく!”ということでなければ可能となります。

■結び■

 変形性股関節症や慢性関節リュウマチ、大腿骨頭壊死症などによる股関節痛によって日常生活の制限をきたしている方は、一度、股関節専門医と相談することをおすすめします。

 人工股関節置換術は、股関節痛を軽減し、行動範囲を広げる手助けとなり、生活の質を向上させる大きな手段です。

 しかし、決して小さな手術ではなく、手術による長所、短所の説明を十分に聞き、納得した上で手術を決定することをおすすめします。そして、もし手術を受けられた後は、体重を増やさないこと、筋力訓練をすること、過度の負担をかけないことなど、日々の努力を継続していただければ、傷んだ股関節に変わって十分に機能してくれることと思います。

宮田康史先生

 幼少期より手稲の峰の四季の変化に見守られ、その懐で育まれてきました。

 医師になって15年。全道を転々としましたが、今回、ご縁があって手稲の峰の麓に赴任することとなり、故郷へ帰ってきた気持ちです。

 股、膝関節の変性疾患、外傷を中心に微力ながら“地域”に貢献していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
所属:手稲渓仁会病院

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